茶室のある家 京都市上京区
担当:辻川結衣
■建築データ
- 建築面積
- 64.60m²(19.54坪)
- 延床面積
- 126.95m²(38.40坪)
- 階数
- 地上2階
- 構造
- 耐震構法SE構法
- 家族構成
- 夫婦+子ども1人
- 設計
- 蘇理裕司
- 竣工
- 2022年
施工ポイント
最初の出会い
出会いは、東京に住むお施主様ご家族から、奥様だけで三条の事務所へのご訪問でした。
お母様が宇治市でお茶教室を開いていて、ご本人もお茶の先生とのこと。土地はあるけれども、お茶室と住まいを一緒に建てることができる工務店がないか、と探されていました。
ハウスメーカーや他の工務店では、本格茶室はもちろん商品の中にはなく、事例も無いと、受けてもらえなかったそうで、住まい設計工房の事務所に来て代表の蘇理がノリノリで「ぜひやらせて頂きたい」と伝えた時に、即決されました。
実は、蘇理は、いつか本格的なお茶室の設計と施工を手掛けたいと10年程前にお茶の教室に通っていたこともありました。とうとう訪れたお茶室施工、それもプロのお茶の先生ふたりとつくるはじめての経験。ノリノリだった理由です。
ファーストプラン
胸踊りながら訪問した現地の土地見学。玄関間口は4.9mと狭く、まさに京都の「うなぎの寝床」という土地形状。ここで頭をひねります。お住まいの外に茶室を作るようになると居住スペースはかなり小さくなり、またそもそも敷地の入口からお茶室に辿り着く路がつくれない。
そこで、家の中に露地をつくり、中庭を「つくばい」(茶室に入る前の庭の手を清めるスペースで結界でもある)とする間取りに。その家の中の露地スペースから、にじり口を経て茶室に入るという、インハウス茶室構想を進めました。
この設計がお施主様にしっくりと受け入れられたことで、その後の詳細図面や模型はファーストプランからほとんど変更なく施工まで進んで行きました。
施工中のエピソード
お茶室をつくるのは全くのはじめてだったので、利休の「待庵」含めて関西にある茶室を見て周り、何冊も本を読み設計施工に入っていきました。
また打ち合わせでは、宇治のお母様の茶室に行き雰囲気と寸法を確認させて頂いたり、お施主様ご夫婦が暮らす目白の「東京カテドラル聖マリア教会」(設計:丹下健三)の近くのご自宅にも伺いました。好きな建築のひとつである教会を訪ねるのも楽しみな出張打ち合わせとなりました。
実際の茶室の施工では、釘を打つ位置などをお施主様に教えて頂いたり、床柱を施主支給頂いたりと、二人三脚で進めさせて頂きました。言語化されたご要望を汲み取りつつ、訪問したお母様のご自宅からのイメージを膨らませ、住まい設計工房ならではの工夫を盛り込んでいきました。結果として、はじめての茶室でしたが、本格的かつ正統なものになりました。奥様とお母様が茶室の進捗を確認に来られる度に、驚きと喜びの声を聞けたのも嬉しいことでした。
施工のポイント
・在来の木造木軸構法ではなくSE構法での建築となり、SE構法×真壁(しんかべ)での建築も新たな挑戦であり、難しい施工ポイントがありました。真壁は、柱を露出する壁のことです。
・茶室は仕切りを設けることで、6畳使いも8畳使いもできるようになっており、その為に炉(お茶のお湯を沸かすいろり)を2つ切ってあります。
・その仕切りで狭さを出さない為に、「吊り鴨居」という手法で天井までは塞がないように。
・茶室全体について光を大分絞ったと共に、必要時の為に、天井裏から自然光に模した照明の埋め込みもさせて頂きました。
お施主様のお心を映す工夫
1階のお茶室は奥様とお母様と進めましたが、2階の居住スペースには旦那様のご意向を反映。特殊な壁紙を使ったホームシアタースペース、キッチンの大きな見せダクト、一階からのテイストを少し反映させた窓辺、リモートワークスペース、床暖房などなど。茶室のある家は、実はホームシアターと暮らす家でもあります。特殊なご要望の具現化と暮らし易さの追求の両輪がテーマとなった設計施工でした。
1階の茶室と2階の寝室を上下に配置し、上下階の音が漏れにくいようにもしています。